不適切ケアに対する「革命」の提案②

注記
※本記事は季刊誌『認知症ケア』2019年冬号に掲載の「不適切ケアに対する「革命」の提案」(執筆者:オフィス藤田有限会社 グループホーム燦々 取締役 看護師/介護支援専門員/ 認知症介護指導者 古城順子)より引用しています。

解決への道をイメージする

不適切ケアの発生要因は大きく2つあると考えている。「スタッフの相互理解ができないこと」と「利用者理解ができないこと」である(図1)。どちらもスタッフの人間らしさを失わせ,怒りや悲しみ,むなしさを感じさせる。
どこから手をつけてよいか分からず,頭を抱えている担当者も多いかもしれないが,一石二鳥の作戦がある。「利用者理解」を通して「スタッフの相互理解」を密かに図る作戦だ。

具体的には,「本人視点のケア会議」と銘打った個別ケア会議を行う。革命を起こそうとしている主催者は,表に示す目的とその順番を忘れないようにしてほしい。

スタッフの発言を傾聴・承認しよう

利用者の言動を会議に参加しているスタッフに発表してもらう際に,その内容と共に,「本当にイラッとくる」「いい加減にしてほしい」「またか…と思ってしまう」という感情が手に取るように伝わってくることがある。そのような感情が湧いてくるのは事実であり,なかったことにすることはできない。

「そんなふうに言うべきではない」と抑えつけてしまうと,その感情を収める場所がなくなり,スタッフは無力感に陥ったり,逆に爆発してしまったり,どちらにしても破綻する。どうすればその感情を整理し,自分が選んだ仕事の本来の目的を思い出すことができるのだろうか。

「利用者が何度も同じことを言う状況」 に対して,最初はスタッフも優しい気持ちで優しい言葉掛けをしていると思う。ただ,繰り返される先の見えないストレスに対して,平常心を保ちつつ,ほかの業務などと優先順位をつけながら対応し続けるのは,どんな人格者であっても困難である。

不適切ケアが存在する時,その傷を負うのは2者だと考えた方がよい。利用者とそれを行ったスタッフ。その手負いのスタッフ自身が,自分にとって脅威となる利用者を理解しなければならない。

そのため,スタッフの傷の手当てが先なのである。利用者のことを口汚くののしるのはよくないが,「どうしてよいか分からない」「一生懸命しているのに分かってもらえず悔しい」というスタッフの感情は,一つも否定するべきではない。

そして,よく考えてみてほしい。果たして,先輩・同僚である自分たちは,そのスタッフに適切なケアができるための十分なオリエンテーションを行えていたかどうか。また,自分自身も先輩や上司からそのような教育を受けたかどうか。

介護業界の歴史は浅い。理念が言語化され,現場で起こっている出来事に対して論理的に説明を受け納得し,見守りの下で経験を積み重ねるような「教育」は,現時点でも十分には浸透していない。丁稚奉公のような「見て学ぶ」時代が長く,それは現在進行形である。

「意味はうまく説明できないけれど,先輩がしているとおりにやっている」というスタッフはかなり多い。経験だけを積み重ね,「自由を奪い,抑えつける介護」を繰り返している場合もある。また,「画一的な正義」を根拠にしている場合も多い。

90歳を過ぎ,消化機能や嚥下機能も低下し,毎日同じことの繰り返しで生きる希望を失った利用者に,「元気がないですねえ」などと言いながら食事形態や姿勢の工夫をしたり,気分転換のレクリエーションを提供したりするなど,介護側の正義のみを押しつけている場合だ。それも誇りを持って一生懸命に…。

氷山に例えると,そのスタッフの言動は水面の上にある「見えている部分」であり,その下にはそのスタッフ自身の感情を裏付ける習慣やプライドなどがある (図2)。まさに,「自律的に」不適切ケアを行っているのである。
先輩からそのように習ったし,それを信じて今まで頑張ってきたのだ。どんなにその方法が正しくなくても,そのスタッフの感情は事実であり,まさにそこに存在する。その言動を否定し,「だめなスタッフ」というレッテルを貼ってしまうと,そのスタッフは心を閉ざし,そして去っていく。

私自身もこの失敗をしているからこそ,「スタッフの相互理解」の重要性を強く伝えたい。水面の下にある見えていないスタッフの習慣やプライドなどを,一度自分のことのように同じ立ち位置で聴く必要がある。

そして,「つらかったね」「あなたも我慢していたんだね」「頑張ったね」「あなただけじゃないよ。皆同じ気持ちになるよ」と伝え,背中の真ん中をトントンと優しくたたいたり,ハグをしたりしてほしい。そうすれば,スタッフの心の中に「利用者理解」のための隙間ができる。

こうやって主催者は,不適切ケアを行っているスタッフを含むチームの心を少しずつ束ねる役割を果たしていくのである。
(「不適切ケアに対する「革命」の提案③」に続く)


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