介護現場における"不適切ケア"とは

注記
※本記事は隔月刊誌『介護人財』2019年9-10月号に掲載の「介護現場での“不適切ケア”を防止する仕掛け」(執筆者:中部学院大学短期大学部 社会福祉学科 教授 横山さつき)より引用しています。

厚生労働省の「高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律」、通称「高齢者虐待防止法」に基づく対応状況などに関する平成29年度の調査結果によると、養介護施設従事者等による高齢者虐待と認められた件数は前年度と比べ12.8%増加の510件となり、そのうちの79.7%が介護職員による虐待となっています。

このように発覚・顕在化した虐待は氷山の一角で、潜在的なケースはかなりの件数に上ると推定されています。全国抑制廃止研究会が厚生労働省の補助事業として2015年2月に行った調査では、2割弱の施設で介護従事者による高齢者虐待が疑われるとの報告がなされています。

また、認知症介護研究・研修センターの「施設・事業所における高齢者虐待防止の支援に関する調査研究事業調査報告書」によると、養介護施設従事者の30~50%程度が「虐待
かどうか判断に迷う不適切な介護行為が自分の周辺に存在する」と回答し、虐待とは言えないまでも、人権を無視した不適切なケアが横行している現状がうかがい知れます。

しかし、不適切なケアの明確な定義や基準は存在しません。適切なケアの基準は絶対的なものではなく相対的なものであるため、適切なケアと不適切なケアとのすり合わせによって標準となるケアを明確にし、共通理解を図る必要があります。

そこで本稿においては、高齢者虐待が不適切な行為、不十分なケアの延長線上にあるものと考え、「不適切ケア」を次のように定義します。

「『高齢者虐待の防止、高齢者の養護者に対する支援等に関する法律』第1章第2条5に定められた、明らかな虐待とは言えないものの、介護従事者等が介護や看護を受ける者の尊厳を侵害したり心身に悪影響を及ぼすストレスを与えたりする行為を言う。ただし、本稿で『不適切ケア』という場合には、虐待や身体拘束(患者本人の生命の保護、重大な身体損傷を防ぐために行われる行動制限)を含む概念として用いる。」

不適切ケアの発生要因として考えられること

介護現場における人材不足が不適切ケアの発生に大きくかかわっていることが考えられます。質の高い介護人材を十分に確保するためには、報酬や勤務体制などの労働環境改善が急務ですが、停滞状態です。また、負荷の大きい肉体労働とともに、介護職独自の心理的ストレス(職業性ストレス)への対応も不十分な現状にあります。

他方、介護福祉士養成ルートの多様性や、資格保有者と無資格者の混在が質にかかわる大きな課題であり、介護職員の知識・認識不足が発生要因となっているとの指摘も
あります。

そのため、介護職員による虐待を含む不適切ケアの発生には、複合的な要素がかかわっていることが推察されます。しかし、多面的に発生要因を探究し、複数の要因がどのように影響し合っているかを明らかにするには至っていません。そこで筆者らは、介護職員による不適切ケアの状況と、不適切ケアの発生に影響を与えていると考えられる要因との関連を明らかにすることを試みました。その結果、次の要素が要介護高齢者に対する無感情や冷淡な対応(脱人格化)の程度を高め、不適切ケアが発生することが明らかとなりました(図)。

●職場での対人関係に起因するストレス刺激を強く感じる
●働きがいを感じる程度が低い
●他者に責任を押し付ける回避的行動をとることによって、問題を解決しようとする対処法(責任転嫁)の使用頻度が高い
●問題解決が困難であると考え、行動に移すことなく解決を諦めたり先延ばしにしたりする対処法(放棄・諦め)の使用頻度が高い

つまり、人員不足や金銭的報酬の少なさ、専門的技量などは不適切ケアの発生に大きな影響を与えていないことが推察され、介護職員がいかに自分のストレスに適切に対処し感情をコントロールできるかが、不適切ケアの発生に大きく影響していることが分かったのです。


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