地域づくりを見据えたボランティア・マネジメント

注記
※本記事は季刊誌『地域包括ケア時代の通所&施設マネジメント』2020年2月配本号に掲載の「施設・事業所における地域づくりを見据えたボランティアとの連携の考え方」(執筆者:京都光華女子大学 健康科学部 医療福祉学科 社会福祉専攻 准教授 南 多恵子)より引用しています。

施設ボランティアをめぐるこれまでの経緯と受け入れの意味

施設ボランティアの存在が,いくつかの論点からますます必要とされている。第1に,利用者支援の質を高められるという点である。よりよい支援をするためには,限られた人数の,特定の専門職のみがかかわっているだけでは限界がある。ましてや,介護人材不足が叫ばれる昨今である。多様な地域の住民がボランティアとしてかかわることで,彩り豊かな支援につながっていく。

第2に,施設周辺の住民の社会参加の場の提供,居場所にもなるという点である。地域に貢献したい,施設利用者のために何かしたい,福祉について学びたい,地域で何か役に立ちたいといった住民の参加の意欲を受け止めることにもなる。理解ある住民が施設の周辺にいることは,施設と地域との架け橋にもなる。

第3に,施設の立地する地域福祉の推進,まちづくりという意味がある点である。特に,この第3の意味は,ここ数年の間に拡大しつつある。2000年の社会福祉法改正時より地域福祉の推進が謳われ,施設もその担い手として地域に開かれた施設運営が求められた。第三者評価にも,ボランティア受け入れの項目がある。やがて,地域包括ケアシステム,地域共生社会注の実現へ向けた潮流の中で,地域の福祉課題に関心を持つ住民が増え,支え合い助け合う関係を構築していくことは,時代の急務となっている。

特に社会福祉法人の場合は,2017年の社会福祉法改正により,自身の改革が迫られていることも大きい。「地域における公益的な取り組みを実施する責務」が義務化され,施設の持つ専門性やポテンシャルを活かし,地域福祉推進に資する取り組みを実施する必要が生まれている。ボランティアの受け入れは,地域と施設をつなぐ大切なチャンネルの一つとして,この先も 丁寧に取り組んでいくことが求められる。

よりよいボランティアの受け入れへ向けた基盤づくり

ところが,いざボランティアを受け入れるとなった時,施設はいくつかの課題に突き当たるのではないだろうか。それは,介護保険制度外の活動であるボランティアの受け入れにかける予算がない,担当職員を置くだけの人的余裕がない,ただでさえ多忙なのに,ボランティア受け入れ業務が増えることへの職員の理解が得られにくい,といったものが一例である。

とはいえ,ボランティアは施設の都合よく動いてくれる単なるマンパワーではない。ボランティアの持つ強みを引き出し,自分たちの弱みをカバーし,利用者や現場職員と調和しながらよりよい実践を創り出していくためには,ボランティアという人材を生かすためのマネジメントが欠かせない。

ボランティアを多く受け入れ,豊かな実践を生み出している施設に話を聴くと,そこでは兼務であれボランティア受け入れのための相談窓口を整え,現場職員もボランティアへの対応をすることは業務のうちと心得ており,職員・ボランティア向けのハンドブックやマニュアル,各種カード類などがそろっている。

また,ボランティア担当者が孤軍奮闘するのではなく,施設として法人として推し進める姿勢を持っている。こうした基盤づくりは,1人の担当者が取り組むのは難しい。法人,施設の理解の下,推進されることが望ましい。

ボランティア・マネジメントのプロセス

それでは,ボランティア・マネジメントとはどのようなものなのか。大まかには図のような流れとなり,人材マネジメントなので,新人職員の採用プロセスにも似たものになる。

 【募集の前にすべきこと】
①②は,ボランティアの特徴を理解した上で,「なぜ職員とは異なる性質を持つボランティアを受け入れるのか? そのことによって何を目指すのか?」といった,施設としての方針を明確にし,そのことを職員全体で合意するという場面である。ボランティアに対し,すべての職員が快く応対 できるようにするための,いわば組織風土を耕すための重要なプロセスである。
【募集の準備】
③④は,ボランティア活動の源泉となるニーズをアセスメントすることにより,ボランティア活動を考え,創り出していく段階である。その際,交通費などの実費についても考える。ケースバイケースで施設が保証するのもよいが,もともとボランティアは金銭的報酬のために活動をするのではない。基本的には「社会の役に立ちたい」 「自分の特技を生かしたい」「友達をつくりたい」「健康によい」など,それ以外のメリットを期待してボランティアをする。利用者,職員のメリットのみならず,ボランティアにとってもメリットが感じられる時間であるようなプログラムになっているか どうかがより大事なポイントとなる。
【募集と受け付け】
⑤~⑦は,応募者を受け付け,オリエンテーションや必要に応じて研修(体験活動,認知症について,車いすの押し方,介護保険についてなど)を行い,実際に施設でボランティア活動をスタートするかどうかという合意を形成する段階である。この時,双方の条件が折り合わなければ,活動につながらない場合ももちろんある。
【活動継続に向けて】
⑧~⑩は,活動継続のための見守りや助言,トラブル対応などのフォローアップとボランティア活動そのものを評価する段階である。その結果,修正が必要な場合はよりよい形態になるよう調整を行う。
【ボランティアを労う】
最後の段階⑪は,ボランティアに感謝の気持ちを伝えることである。日々の活動に口頭や広報紙などで感謝することはもちろんだが,金銭の報酬を受け取っているわけではないボランティアに対して,施設によっては「年に1度食事を伴う感謝の集いを開く」「職員も一緒に鍋パーティーをする,ビアガーデンに行く」「継続年の節目で理事長表彰をする」などの工夫を凝らし て労いの時間を設けている。
 * * *
簡単にではあるが,これがボランティア・マネジメントのプロセスと言われるものである。ボランティアが活動する中で,時にはトラブルが起こることもある。リスク管理の観点からも,むしろボランティア・マネジメントを取り入れることが望ましい。新設の施設であれば,①から順に施設内で話し合って構築していけばよいが,すでに受け入れている施設なら,自施設の弱い部分,課題がある部分を見つけ,強化していくとよいだろう。

続きは季刊誌『地域包括ケア時代の通所&施設マネジメント』2020年2月配本号をご覧ください


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