コーチングの要素を使ったケアマネジャーのコミュニケーションスキル

注記
※本記事は隔月刊誌『達人ケアマネ』2020年6-7月号に掲載の「ケアマネジメントの質をアップさせるキーワード」(執筆者:オレンジケア居宅介護支援事業所 主任介護支援専門員 認定ケアマネジャープロコーチ 山本治美)より引用しています。

ケアマネジャーである私たちは,要介護状態となった利用者の現状に目を向け,自身の思い や望みを言語化できるよう促し,ケアマネジメントを行います。利用者が,主体性のある課題解決への行動変容やサービスの活用により生活の質が向上するよう支援する状況は,コーチングに例えられます。

ここで,コーチングについて少し説明します。コーチングとは,「対話を重ねることを通じて,クライアントが目標達成に必要なスキルや知識,考え方を備え,行動することを支援す るプロセスである」と言われています。コーチは,クライアントの目標達成に向けた行動を 促進できるよう,コーチングプロセスを意識しながら対話を続け,気づきを促します。

1回の対話(セッション)では,話の始まりから終わりまでの流れを30~60分程度で行います。また,コーチングを始める前に行うオリエン テーションでは,クライアントが望むコーチングの使い方,叶えたい目標などを確認し,どのような関係性を保ちコーチにかかわってもらいたいかを話し合ってお互いに合意できるルールを決めます。

コーチは,クライアントが自分の責任のもと自分の力で行動し,自分の描く姿を叶えていくというお手伝いを行います。クライアントが決して他力本願になることのないよう,しっかりと自分の課題に向き合っていくことで,満足できる目標達成に効率よくたどり着けるのです。

このように,ケアマネジャーが行うケアマネジメントは,コーチングに例えることができるのです。

信頼関係を築くセットアップの効果

人はよく知らない相手のことを苦手と感じやすいと言われています。コーチングでは,コーチとクライアントの「お互いの知らないことを埋めて,よく知る存在になる」までを,打ち合わせをしながら合意していきます。このことをセットアップと言います。

つまり,コーチとクライアントのポジションを認識した上で,信頼関係を形成し,どこに向かっているのか,どんな課題を変化させたいのか,誰とどのくらいの時間を使ってどんな変化を叶えていくのか明らかにしながら,コーチングをスタートさせる準備を行うのです(図)。
セットアップが整っていると,クライアントはコーチを信頼し,リラックスして湧き上がる感情に正直に話すことができるようになります。コーチもクライアントの感情に寄り添った質問ができるようになり,コーチングの質が上がり,より効果的な気づきが起こるのです。

さて,ケアマネジャーの大半が抱える大きなテーマとして,利用者との信頼関係の構築が挙げられると思います。利用者の要望に応えられるだろうか,そもそも信頼できる人として受け入れてもらえるだろうかなど,プレッシャーがついてまわります。

また,利用者も初めて会った人にプライベートな内容を話すことへの緊張感や,「介護保険」というまだ遭遇したことのないシステムへの不安や抵抗感などを持っています。私たちケアマネジャーが,初回面接から信頼されるまでのハードルは,意外と高いものです。

ケアマネジャーは,そのような利用者の今起こっている状況を冷静に観察しながらも,個人としてのプライベートな人格と支援者としての職業的人格を意識しながら,ケアマネジャーという仕事をこなすことになります。

私たちが支援者として利用者を信頼するという心の準備が整い,利用者にもリラックスして今の状況を語ってもらえるためには,相手を「よく知る」ことが大事になります。よく知らないと,お互いに相手のことを受け止められなかったり,固定概念で捉えられてしまうこともあります。では,「よく知る」とはどうすればよいのでしょうか? 

出会いのきっかけを確認

利用者は,どのような背景でケアマネジャーに仕事を依頼したのでしょうか? 依頼動機を確認します。ケアマネジャーに仕事を依頼したことで,依頼動機となった出来事を解消しようという期待があるということを押さえておきましょう。

期待に添えるかどうかを伝える

ケアマネジャーのできることとできないことをきちんと利用者に伝えましょう。内容によっては,ほかのサービスや相談窓口で対応しなければならないこともあるでしょうし,それを伝えずに依頼を引き受けた場合は,どこかの段階で「期待外れだった」とがっかりされ,不信感につながってしまいます。

改善のイメージを共有

依頼動機となった出来事が解消されると見込まれた場合,何を・どの程度改善することを希望しているのか,それについてどのようなイメージを持っているのか,またどのくらい利用者が主体性を持って課題に向き合うつもりがあるのかを利用者の言葉で伝えてもらいます。加えて,利用者の大切にしている価値や守りたいものなど,さまざまな角度から本人の言葉を聴きます。

また,その支援内容や支援方法については利用者の同意が必要となります。具体的には,連絡の取り方・使いたいツールの有無,訪問の方法,連絡しやすい時間,ぜひ話に参加してもらいたい周りの支援者の有無なども確認して,共有しておくとよいでしょう。特に,ケアマネジャーが利用者にとってどのような存在になれるとよいのか,そのかかわり方へのリクエストの有無などを聞いておくととてもよいと思います。
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セットアップは,ケアマネジメントプロセスでいうインテークで,ラポール形成の場面でもあります。お互いが信頼関係のもと,相手と自分の役割を構築する場でもあります。


(※続きは隔月刊誌『達人ケアマネ』2020年6-7月号よりご覧ください。)

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