認知症の人の心理

注記
※本記事は隔月刊誌『通所サービス&マネジメント』2019年7-8月号に掲載の「認知症の人に安心感を与えるコミュニケーションのコツ」(執筆者:エスティーム 代表 作業療法士 牛尾容子)より引用しています。

もしブラジルで 迷子になったら?

例えば,皆さんが海外旅行ツアー先のブラジルのサンパウロで,突然ツアーからはぐれ,迷子になってしまったとしたらどうしますか?

想像してみてください。ここは一体どこだろう? どうしたらよいのだろう…となり,全く知らない街を当てもなく歩き回るかもしれません。周囲の人に話しかけようにも言葉は通じず,途方にくれるばかり…。日本に帰れなくなったらどうしようなど,泣きたくなるような不安な気持ちで立ちすくんでしまうかもしれません。
そのような時,「どうかしましたか?」と優しそうな笑顔を浮かべた人が日本語で話しかけてくれたら,うれしくて,すっかり頼ってしまうかもしれませんね。このようなブラジルで迷子になった人の気持ちは,もしかしたら認知症の人の気持ちと同じような感じかもしれません。

記憶障害,見当識障害のために,自分が今どこにいるのか理解できない。「家に帰りたい」と思って歩き回っていても,援助者は自分のことに目もくれず,忙しそうにほかの仕事をしているので声をかけられない。また,声をかけても,誰も自分が納得するようなことを言ってくれないので,外国語のように聞こえる…。認知症の人は,常にこのような不安な心境です。

そのような時,優しそうな笑顔で「どうされましたか?」と声をかけてくれ,ゆっくり話を聴いてくれる人がいたら,その人を信頼して頼りたくなることでしょう。「自分だったら?」と考えてみてください。

認知症の人の心理

認知症の人の気持ちを理解することは,援助者にとってとても重要です。認知症の人にもさまざまな個性があるため一概には言えませんが,認知症の人の気持ちを理解しようとするために認知症特有の心理状態を知り,認知症の人の気持ちを想像し,接していくことが必要です。

認知症の人がいつもどんな心理状態で過ごしているのかを考えてみましょう1)

●常に包まれる不安・不快

記憶障害や見当識障害などにより,自分の置かれている状況が理解できず,さまざまな生活障害が生じ,それまで普通にできていたことができなくなる不安な状態でいることが多くなります。自分の力だけでは気分を変えて不安や不快な状態から逃れることができないので,他者からのかかわりが何もないと,1日中不安や不快な気持ちにとらわれているかもしれません。

●アイデンティティ (自分らしさ)の危機

認知症によってできないことが増えてくると,今まで自分ではできると思っていた仕事を奪われる,正しいと思っていることを否定される,若い援助者から子ども扱いされるなど,高齢者としての尊厳やアイデンティティが傷つけられる体験が多くなり, 情けない,つらい気持ちになりやすいです。

●つながりの喪失

人は社会的な生き物であり,他者とつながっていることで自分の存在意義を確認することができます。しかし,記憶障害や見当識障害などにより,周りが見知らぬ場所,知らない人に囲まれていると感じると,強い孤独や不安を感じやすくなります。

●役割の喪失

若い頃は働き者で熱心に働いていても,認知症になると,危険防止のためこれまでの仕事上の役割を制限されてしまいます。 また,父母としての役割なども失われ,自分の価値がなくなったような気がして,つらい気持ちになることが増えます。

●孤独感・寂しさ

高齢になると親しい友人や家族との死別があったり,住みなれた生活の場所を離れることになったりと,選択の余地がなく一人になることもあります。また,頼りたいと思いつつも,自分から人とのかかわりを拒絶し,孤独感を抱える人も多いようです。


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