現場が多忙で災害対策に手が回らない

注記
※本記事は季刊誌『認知症ケア』2020年夏号に掲載の「高齢者施設における災害対策の基本」(執筆者:ジョージ防災研究所 代表 防災アドバイザー 小野修平)より引用しています。

我が国では,地震や風水害などの自然災害が毎年のように発生しています。また,現在は新型コロナウイルスの影響で不安な日々を過ごしている人も多いことと思います。

感染拡大防止のために,私たちはライフスタイルを大きく変えざるを得ない状況となりました。今後はその影響を受け,高齢者の要介護化や介護度の重度化が起こったり,感染への不安から介護保険サービスの利用を控えたり,サービスを停止したりしたことにより家族への介護負担が増え,介護疲れや高齢者虐待などの問題も生じてくると思われます。

さて,本題に入りますが,高齢者にかかわる事業所としては,利用者やその家族,職員の命を脅かすさまざまな危機に対して,日頃からどこまで対策を積み上げていけるかが勝負となります。しかし,誤解を恐れずに言えば,筆者の体感では,災害対策が不十分な事業所が多いと感じます。それには,次のような原因が挙げられます。

・現場が多忙で,災害対策に手が回らない。
・災害対策に必要な予算措置が十分ではない。
・正しいノウハウがなく,手探りで進めている。

筆者自身も福祉施設における防災コンサルティング事業を実施していますが,すべての事業所がこれらの悩みを抱えています。

現場が多忙で,災害対策に手が回らない

どの事業所でも,早急に災害対策に取りかからなければならないことくらいは分かっています。しかし,災害対策を行う人的余裕も,金銭的余裕も,時間的余裕もなく,法令にのっとった形式上の訓練や消防設備の点検程度でとどまっていたり,一部の職員がマニュアルを作ったとしても,それが組織全体に周知されず,お守りとしてまつっているかのように,ファイルに綴じられたままとなっていたりするというジレンマがあるのではないかと推測します。

そこで重要なポイントとして,①組織全体の取り組みとすること,②担当者を複数選任すること,③防災会議などを定期的に行うことの3点が挙げられると考えています。

組織全体の取り組みとする

災害発生時,すべてのことに一人では対応できないため,職員全員が一定水準まで意識を高め,対応手順などを共有しておくことが必要となります。一部の職員だけで災害対策に取り組みはじめると,周りの職員との温度差が生まれると共に,その職員が疲弊してしまうことになりかねません。また,事務分掌の中で義務的に防災担当となった場合においても,ほかの職員が防災担当の職員に依存 する風土が出来上がり,やはり温度差が生まれます。

そのため,経営者や管理者らが率先して方向性を示し,「中核となる職員は選任するが,組織全体で取り組むべき課題であり,職員全員に協力してもらいたい」という強いメッセージを示すことが重要となるでしょう。

担当者を複数選任する

高齢者施設における災害対策には,マニュアルの作成をはじめ,研修や訓練,備蓄などさまざまな事柄があります。組織規模にもよりますし,入所・通所・在宅のサービスが混在している施設ではなおさらですが,1人では災害対策はできません。仕事量の問題もありますが,1人で進めていると,どうしても視野が狭くなり,現場の声や実態を踏まえた対策ではなくなってしまう可能性があります。 そのため,基本的には担当者を複数選任し,進捗状況を見ながら,適宜人員を増減させたり,入れ替えたりすることが必要です。

防災会議などを定期的に行う

日々の多忙な業務に忙殺されていると,いつの間にか災害対策の取り組みが停滞してしまいます。そこで,極力定期的に防災会議の場を設定し,半強制的に進めていくことが求められます。日常業務として,目の前にいる利用者への対応も大事ですが,災害発生時という緊急事態ではなおさら,利用者とその家族,職員の命と生活を守ることが必要であり,災害対策の取り組みを停滞させない工夫が重要です。

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