食べこぼしの多いBさん

注記
※本記事は季刊誌『認知症ケア』2020年夏号に掲載の「誤嚥をさせない食事ケアのコツ」(執筆者:Taste&See 代表/慢性疾患看護専門看護師/摂食・嚥下障害看護認定看護師 西依見子)より引用しています。

Bさんは,90代,脳血管性認知症の男性です。食欲はあり,食事はすべて口に入れていましたが,食べこぼしが多い状態でした。

そのため,介助も加えて食事をしているのですが,それでも食べこぼすことが多く,最近になり体重減少を認めていました。

嚥下に問題があるのではないかと心配になり,評価をしてほしいと私に依頼がありました。

口腔内の状態

Bさんは総義歯でしたが,口を開けると義歯が落ちてくる状態でした。歯科受診はしていましたが,顎堤(歯が抜けて歯肉だけになった部分)が痩せており,義歯の調整は難しいとされていました。

しかし,食事を開始し,唾液が出てくると,義歯が落ちてこなくなるということでした。これは,義歯と粘膜の間に唾液 が入り,濡れたもの同士がくっつく作用で義歯が安定するためだと考えられました。

そこで,義歯の裏に口腔内保湿ジェル(オーラルピース)を塗布して義歯を装着することにしました。その結果,義歯が安定し,口を開けても落ちてくることはほとんどなくなりました。

食事場面の観察

Bさんは,車いすに座り,大きなスプーンを使用して食べていましたが,半分程度はエプロンに落としてしまっていました。

テーブルの高さはかなり低く,スプーンで食物をすくい口に取り込むまでにいくらか落としていました。

また, スプーンの先を口に入れてすぐに口唇を閉じるため,スプーンを口から抜き取る際にさらに食物が落ちていました。

食事ケアの工夫

上肢の動きに問題があると考え,食物をすくってから口に持ってくるまでの距離が短くなるように,テーブルの高さを,腕を乗せた時に肘が90度に曲がる程度に調整しました。

また,スプーンに乗せた食物を口唇で十分に取り込むことができるように,ヘッドの小さいリードスプーンに変更しました(写真2)。

これらにより,Bさんの食べこぼしの多くは改善しました。

Bさんは,一見食事を摂取できているように見えましたが,その多くをエプロンに落としていたため,実際の摂取量はかなり少なかったと考えられます。また,口唇での取り込みに問題があったため,介助摂取でも食べこぼしていたことが体重減少につながっていました。

この例のように,口唇の取り込み状態によりスプーンの大きさを変更することは,効果的だと考えます。





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