地域と共存した地域づくり

注記
※本記事は季刊誌『地域包括ケア時代の通所&施設マネジメント』2020年5月配本号に掲載の「地域と共存した地域づくりと地域貢献活動の実践」(執筆者:株式会社浪漫 代表 黒岩尚文/統括部長/共生ホームよかあんべ 管理者 苙口淳)より引用しています。

事業所開所当時の地域の人たちとのかかわり

当事業所は,2007年に現在の姶良市加治木町萩原地域でスタートしました。私たちは開設当初から,「楽しく明るく地域の方と地域の中にあり続ける」を一つの理念として,地域との関係づくりを大切にしてきました。なぜならば,そもそも利用者自身が住民であり,本人の暮らしには地域との関係が大きな影響を与えることを感じていたからです。

しかし,突然地域に舞い降りてきた介護事業所が,地域の人に簡単に受け入れられることはありません。「一体どこの誰が運営しているのか?」「お年寄りは何人ぐらいいるんだ?」「奇声を上げたりしないのか? 火事を起こしたりしないのか?」など,開所当初はそんな声と視線をなんとなく感じていました。

そのような中,私たちはこの地域で事業をさせてもらえることに感謝し,日々のあいさつから始まり,毎朝のごみ拾い,自治会活動や行事への参加など,当たり前のことを日々続けてきました。そして,2013年に通所介護から小規模多機能型居宅介護に事業を転換すると,地域密着型サービス事業者に義務づけられた運営推進会議が大きな役割を担うこととなりました。

運営推進会議には,自治会役員,民生児童委員,福祉アドバイザー,長寿会,消防団員,運動推進員などに参加してもらいました。自治会のルールで毎年自治会長は交代しますが,会長役を終えても会議への参加をお願いしてきました。

こうして年々メンバーが増え,当事業所のスペースでは入りきらないこともあり,自治会公民館で会議を開催することになりました。今では運営推進会議を毎月開催していますが,当時は地域の皆さんと公民館で膝を突き合わせ,笑い溢れる会議となる光景などまったく想像していませんでした。地域の皆さんに感謝の気持ちでいっぱいです。

実践事例の紹介◆事例1:地域の方々との夕涼み会

◆住民の声をきっかけに実施を決定。しかし不安が…
「自治会みんなで何かをすることって,今では何もなくなった」「今だったらみんなで一緒に夏祭りとかできそうだよね」と,ある日の運営推進会議で地域の方から声が上がりました。その時私たちは,「何かできそう」と期待する思いと,「大丈夫かなぁ」と躊躇する思いが錯綜していました。

「自分たちにやってほしいということか?」「ほかの職員はどう思うだろう?」「ここは聞き流していいのかな?」「利用者も移動しないといけないし,事業所でやった方が楽なんじゃないか?」など,まさにネガティブ思考全開でした。さらには,私たち介護事業所が積極的に動くことを快く思わない人もいるだろうし,地域の人にも迷惑をかけるかもしれないと思いました。

しかし,こんな不安な気持ちを抱えながらも,地域の方々との夕涼み会を実施することを決めました。開催することを決めてから,どのように進めていけばよいか,地域の人に話をうかがいました。すると,この地域で長年暮らし,地域の移り変わる様子を見てきた80代の女性が「昔はこの辺の有志が集ってね,公民館の前で夏祭りをして盛り上がったのよ」「もうその方々も何人残っているかしら」と話してくれました。このような話を聞き,やるからには地域の方みんなに集まってほしいという思いが強くなりました。

最大の問題は,日程と場所でした。日程については,「自治会の子どもたちが六月灯で灯篭を持って近所の春日神社に集まる。でも,灯篭の役目はそれだけですぐに片付けてしまう」という地域の方の言葉から,「じゃあ,その六月灯の日にやろう!」と決まりました。春日神社から帰ってくる子どもたちを夕涼み会の会場で迎えるというみんなの楽しみができました。

会場は,みんなが集う公民館前が候補に挙がりましたが,警察の許可が下りませんでした。すると,「例年どおり,よかあんべさんの庭でいいんじゃない」という声が挙がりました。しかし,それではこれまでどおりの「よかあんべ(事業所)の夕涼み会」になってしまうと思い,地域の方に一軒一軒相談して回りました。

そのほか,会場周辺の方々へのあいさつ回りや,責任者を誰がするのか,スタッフからも「こんなに苦労してまで地域の方とやる意味はあるんですか?」と問われることもあり,簡単には進みませんでした。

◆なぜ,夕涼み会をやるのか?
「よかあんべの夕涼み会」から「地域の夕涼み会」にするには,自分たちが事業所から出ていく必要性がありました。それは,「利用者が地域から忘れられないため」です。

認知症や病気で自宅から施設や病院へと居場所が変わることで,地域からその人の存在はなくなってしまいます。距離的には近い当事業所を利用していたとしても,地域からその人の顔が見えなくなってしまってはいけません。

こうして,さまざまな壁を乗り越え,2018年7月19日に「はぎはら夕涼み会」を開催することができ,約150人の住民が集まりました。夕涼み会が始まっても,すべてが初めてのことだったので,終始ドキドキしていました。

プログラム最後の万歳三唱には,地域住民であり,当事業所を利用している邦子さんが舞台に立ち,会場の全員で行いました。この時,会場のみんなが同じ方向を向き,みんなが笑顔でした。地域の人たちが同じ住民としてそこに集い,笑い,住民同士ただその場を楽しむことができることに,流した汗も喜びに変わっていました。これを機に,毎年の恒例行事になりそうです。


続きは季刊誌『地域包括ケア時代の通所&施設マネジメント』2020年5月配本号をご覧ください


■関連ページ■


コメント