認知症高齢者と介護ハラスメント

注記
※本記事は隔月刊誌『介護人財』2020年3-4月号に掲載の「認知症高齢者からの介護ハラスメント・対応」(執筆者:社会福祉法人宏友会 特別養護老人ホーム西野ケアセンター 統括施設長 保坂昌知)より引用しています。
従来から、認知症の利用者に噛みつかれたり引っ掻かれたりすることは、介護現場では「当たり前」のこととして認識され、問題としてとらえられにくいものでした。介護職員は「利用者は認知症なのだから仕方がない」「高齢者は弱い立場なので、職員が我慢しなければならない」「介護職員の対応の仕方に問題があったに違いない」などと思っていましたし、職員個人のスキルの問題として職場も対応していたと思います。

しかしながら、認知症の人は人を殺してもよいのか、人を傷つけてもよいのかと言われると、それは違います。また、介護職員はひたすら認知症の人の暴力や暴言に耐えながら仕事をしなければならないのかと言われれば、それもまた違うと思います。利用者に人権があるように、介護職員にも人権は存在します。

介護人材の確保が難しい状況の中で、職員が定着し、魅力ある職場として認知されるためには、「介護ハラスメント」の取り組みは施設として無視できない問題になっているのではないでしょうか。

介護ハラスメントのタイプ

あくまで私見ですが、介護現場での利用者や家族からの介護ハラスメントには、大きく分けて次の3つのタイプが存在すると思っています。
❶ 認知症のBPSDによるもの
❷ ケアに対する知識・情報不足によるもの
❸ 誤った権利意識や価値感の違いによるもの

出現する「行為」としては一緒でも、一括りに「介護ハラスメント」としてはとらえられないと思っています。

ハラスメント(Harassment)は英語で「嫌がらせ」という意味ですが、その種類はさまざまです。他者に対する発言・行動などが、一般的には本人の意図には関係なく相手を不快にさせたり、尊厳を傷つけたり、不利益を与えたり、脅威を与えたりすることをハラスメントととらえることができます。

定義から考えると、認知症高齢者の暴言・暴力行為などは、一般的に言われるハラスメントとは違和感を覚えます。認知症などの疾患が影響する暴言・暴力行為、セクシャルハラスメント(以下、セクハラ)は、判断力や理解力の低下などが原因で、介護に対して抵抗を示していると考えることが妥当ではないかと考えています(図)。

つまり、認知症高齢者は、介護職員への「嫌がらせ」のために暴言・暴力行為、セクハラをしているわけではないということです。そういう意味ではハラスメントとは一線を画す
ものだと思いますし、対処の仕方も違ってきます。

認知症高齢者の暴言・暴力行為、セクハラ

考えられることの第一に、介護現場では人の入れ替わりが激しく、基礎を学ばないまま飛び込んでくる人が多く、介護現場が人を選ぶ余裕がないということが挙げられます。第二に、それによる知識や技術の不足から認知症のBPSDを誘発し、利用者対応の難しさが増していること、第三に、ギリギリの職員配置基準で、生活の便宜の名の下に介護職員が生活全般について対応しなければならないことによる業務負担やストレスの高まりなどが考えられます。

つまり、人が少ない状況で知識や技術がおぼつかないまま、利用者の介護だけでなく、介護以外の仕事に振り回される介護現場の実情があり、知識不足から認知症への適切なかかわりができないことで、職員がハラスメントの「引き金」を引いていることが少なくないということです。

とはいえ、認知症があったとしても、利用者による暴言や暴力、セクハラ行為が正当化されるものではありません。ここに、倫理的なジレンマが発生します。

職員の研修体制とアセスメントの視点

当施設では、何をもって介護ハラスメントと呼ぶのか、また職場がどのように取り組んでいこうとしているのか、介護ハラスメントに対する知識と情報などを、年に数回研修で取り上げて職員に周知しています。

高齢者虐待防止法が施行された当時、何をもって虐待と言うのか、介護現場の知識や情報があまりにも少なく、介護業界が対応に苦慮していたことを彷彿とさせます。それと似たようなもので、介護現場の職員が介護ハラスメントに対して、あまりにも無防備であるという感じは否めません。

職員はもちろん、施設や事業所が介護ハラスメントになることに気づいておらず、「介護職員の力量不足」「そんなことはよくあること」「それを乗り越えたら一人前」など、介護ハラスメントは介護職員のスキルの問題であるという考え方でいることが問題なのです。

高齢者であろうが、認知症であろうが、暴力は暴力であるという認識が必要なのであり、それについて施設・事業所として取り組んでいくことが大切なのです。


※続きは隔月刊誌『介護人財』2020年3-4月号をご覧ください。
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