高齢者糖尿病ケアのポイント

注記
※本記事は季刊誌『認知症ケア』2020年春号に掲載の「糖尿病を抱えている高齢者のケア」(執筆者:原内科クリニック 糖尿病看護認定看護師/京都大学大学院 医学研究科 客員研究員  水野美華)より引用しています。

◆認知機能

糖尿病があると,糖尿病でない高齢者に比べて認知症になりやすいと言われており,認知機能の低下の程度によっては,治療の根幹となる食事や服薬管理を含むセルフケアが困難となり,血糖コントロールを悪化させる要因となります。

徐々に血糖コントロールが乱れてくることで認知機能の低下に気づくこともあれば,知らないうちに高血糖状態が持続し,重症化して初めて明らかになることも珍しくないのではないでしょうか。

日頃の様子を把握している介護スタッフや家族が認知機能低下の兆候をキャッチした場合は,早い段階から食事や薬の管理について,本人ができることとサポートが必要なことを見極め,支援体制を整えていく必要があります。

認知機能の低下に関連していることで高齢者特有の注意すべき事柄として,低血糖があります。糖尿病があり薬物療法(内服薬や注射薬)中の高齢者で認知機能の低下を疑う症例について,低血糖を是正することによりそれらの状況が改善されることは,多くの高齢糖尿病患者をケアする身としてよく経験することの一つです。

まずは,血糖値が低い状況が持続していないか,頻繁に低血糖を起こしていないかなどについて検証する必要があると考えます。昨今では,専用の機器 (Continuous Glucose Mon­itoring: CGM)を用いて24時間連続して血糖をモニタリングすることが可能となり,夜間の低血糖などを簡単に知ることができるようになりました。かかりつけ医に相談するなど,まずは低血糖による影響がないかを精査することをお勧めします。

◆食事療法

高齢者は,低栄養やタンパク質不足などにより筋力低下を来すことで転倒しやすくなるなど,老年症候群あるいは低血糖を誘発しやすい状態にあります。糖尿病イコール食事制限と思いがちですが,若年者とは明らかに身体状況が違うということを理解し,「食べ物で血糖値を上げないようにする」という考えは優先すべきではないと考えます。

まずは,食事摂取状況,栄養状態,身体状況(体組成)など多面的に評価し,個々に合った食事療法を確立していくとよいと思います。中でも,食事内容についてのポイントとしては,サルコペニア予防の観点からも,タンパク質(魚,肉,豆,豆腐,乳製品など)は十分摂取してほしい栄養素の一つなので,高齢者自身が好きなもので,しかも食べやすく,安価なものをコンスタントに摂れるよう工夫しましょう。

ただし,長年糖尿病を患ってきた人であれば,“食事制限”という観念が根付いており,「急に食べていいよと言われても…」と戸惑うこともあるかもしれません。そのような高齢者や家族には,加齢に伴う身体機能の変化,あるいは認知症予防や介護予防の観点から,必要量の食事摂取の大切さについて説明するなど,高齢者が安心して食べることができるような声かけを行いましょう。

なお,ちまたでよく耳にする“糖尿病があるから間食はなし”などの対応も,認知症による暴食・過食のケースや肥満例以外は,非糖尿病の人と同様の対応をしてほしいと願うところです。

◆運動療法

高齢者には加齢による骨格筋量・筋力の低下が認められますが,糖尿病があることでそれらはより顕著になることから,身体活動量を維持することが重要です。

血糖コントロールのためにも運動が大切であることは間違いないですが,それ以上に要介護・寝たきりを回避するためにも,軽い歩行運動や座りながらできる運動など,高齢者や介護者の負担が大きすぎず,継続して行えるメニューで取り組むことが理想です。

高齢者の状況によっては,訪問リハビリテーションや通所リハビリテーションを利用して専門スタッフのサポートを受けることも一つの方法ではないでしょうか。

ただし,運動療法を行う際は,心疾患をはじめとした身体状況に問題がないかを事前に医師に確認しておくなど,個々に合った内容を吟味する必要があります。

◆薬物療法

高齢者にとって問題となることも多い薬の管理については,日頃からさまざまな工夫がされていることと思います。特に糖尿病を持つ高齢者は,併存疾患を抱え,多剤を使用しているケースも珍しくなく,薬の飲み忘れ,注射薬の打ち忘れや2度打ちなど,安全性を確保することは容易ではありません。

さらに,インスリン注射が必要な場合は,指示された単位数が見えるのか,注射器を押す力があるのかなど,高齢者の管理能力に合った方法を検討する必要があります。現在は週1回の注射製剤(GLP­1受容体作動薬)があり,手技も簡単で,毎日行わなくてよいというメリットはありますが,これはインスリンに変わるものではないため,すべての高齢者に使用できるわけではありません。

いずれにしても,指標を参考に血糖コントロール目標を設定し,必要となる治療が安全で,かつ本人・家族・介護者の負担が少なくなるよう,かかりつけ医,糖尿病専門医療スタッフ(糖尿病専門医,糖尿病療養指導士,糖尿病看護認定看護師,慢性疾患看護専門看護師,老人看護専門看護師など),看護スタッフ,介護スタッフ,薬剤師など多職種で連携しサポートしていくことが重要です。
注1:認知機能や基本的ADL(着衣,移動,入浴,トイレの使用など),手段的ADL(IADL:買い物,食事の準備,服薬管理,金銭管理など)の評価に関しては,日本老年医学会のホームページ(http://www.jpn-geriat-soc.or.jp/)を参照する。エンドオブライフの状態では,著しい高血糖を防止し,それに伴う脱水や急性合併症を予防する治療を優先する。
注2:高齢者糖尿病においても,合併症予防のための目標は7.0%未満である。ただし,適切な食事療法や運動療法だけで達成可能な場合,または薬物療法の副作用なく達成可能な場合の目標を6.0%未満,治療の強化が難しい場合の目標を8.0%未満とする。下限を設けない。カテゴリーⅢに該当する状態で,多剤併用による有害作用が懸念される場合や,重篤な併存疾患を有し,社会的サポートが乏しい場合などには,8.5%未満を目標とすることも許容される。
注3:糖尿病罹病期間も考慮し,合併症発症・進展阻止が優先される場合には,重症低血糖を予防する対策を講じつつ,個々の高齢者ごとに個別の目標や下限を設定してもよい。65歳未満からこれらの薬剤を用いて治療中であり,かつ血糖コントロール状態が図の目標や下限を下回る場合には,基本的に現状を維持するが,重症低血糖に十分注意する。グリニド薬は,種類・使用量・血糖値等を勘案し,重症低血糖が危惧されない薬剤に分類される場合もある。
【重要な注意事項】糖尿病治療薬の使用にあたっては,日本老年医学会編「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン」を参照すること。薬剤使用時には多剤併用を避け,副作用の出現に十分に注意する。
日本老年医学会・日本糖尿病学会 編・著:高齢者糖尿病診療ガイドライン2017,P.46,南江堂,2017. 

(続きは季刊誌『認知症ケア』2020年春号をご覧ください。)

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