感情労働としてのケア労働

注記
※本記事は隔月刊誌『介護人財』2020年3-4月号に掲載の「〝感情〞を大切に扱うリーダーの育成と組織づくり」(執筆者:新潟医療福祉大学大学院 医療福祉学研究科 教授 吉田輝美)より引用しています。

ケアする人がケアされなかったわけ

介護の仕事をしているあなたは幸せを感じていますか? もちろん、幸せの感じ方は人それぞれであることは言うまでもありません。しかし、この問いかけをしなければならない背景には、介護人材の離職問題が長年解決されていない事実があるからです。これは、ケアする人がケアされていないことによる、介護現場における独特な風土に起因すると筆者は考えています。

それでは、なぜケアする人がケアされてこなかったのでしょうか。介護保険制度以前の我が国の福祉制度は、措置制度によって行政から認められた人しか利用できませんでした。当時は家族介護を前提としていたため、措置を施される人は「可哀想な人」や「哀れな人」といった"社会の脱落者"としてとらえられていました。そして、この可哀想な人たちを「何とかしてあげたい」という気持ちから、ボランティア精神によって一生懸命頑張る人たちが現れ、介護が提供されていました。

無論、ボランティア精神ですから、ケアする側の労働条件についてはあまり関心を向けられず、「利用者のために」「介護は心」という言葉でケアする者の自己犠牲を強いることが多くありました。また、当時は限りある福祉予算の問題や、介護サービスの整備も十分ではなく、これらの資源を効率的に活用しなければならなかった事情もありました。

これらのことから、ケアする側には「愛の労働」という精神論に近い感覚が常態化してしまいました。介護現場に身を投じた職員は、「自分で決めた仕事だから弱音を吐いてはいけない」と考えながら疲れ果て、燃え尽き、辞めていくのです。

さらに、介護現場には、雇用者から求められる「介護の理想像」があることを忘れてはいけません。介護現場において雇用者が第一に求めているのは、利用者が満足するケアを提供することではないでしょうか。したがって、ケア労働者は、雇用者から求められている利用者が満足するケアを提供することによって、その労働の対価(給料)を得ることになるはずです。

このことをホックシールドは、「感情労働」という概念によって具体的に分析しました。ここで感情労働の解釈について注意したい点は、ケア労働者のストレスが多く、感情の疲弊が起こる仕事だから感情労働であるという解釈ではないということです。

感情労働としてのケア労働

感情労働が求められる職業はたくさんあります。まずは、次の3つのホックシールドによる感情労働の特徴を確認しましょう。
【特徴①】対面あるいは声による顧客との接触が不可欠である。
【特徴②】それらの従事者は、他人に何らかの感情変化(感謝の念や恐怖心)を起こさせなければならない。
【特徴③】そのような職種における雇用者は、研修や管理体制を通じて労働者の感情活動をある程度支配する。

ケア労働が感情労働であると言うためには、これら3点が展開されることが必要です。では、具体的にケア労働にある感情労働を見ていきましょう。

特徴①は、ケア労働者が利用者と直接かかわる中に感情労働があり、そのかかわりにおいては、言葉のやり取り、いわゆるコミュニケーションがなされている場面と言えます(図1)。
特徴②は、ケア労働者は、利用者とコミュニケーションをする中で、利用者の感情を変化させなければならないということです。利用者の感情に変化を起こさせ、適切な感情に到達してもらうことは、雇用者がケア労働者に求める労働の一つです。雇用者が求めるのは、少なくとも利用者の怒りや悲しみといった感情ではなく、この施設でずっと生活したい、ここの職員に世話をしてもらいたいという気持ちを持ってもらうことです。

この点から、ケア労働者は利用者の怒りや悲しみの感情を楽しみや喜びなどへ変化させることが求められます。つまり、ケア労働は、利用者の不快の感情を快い感情へと変化させるようなコミュニケーションによるかかわりでなければならないのです。

特徴③は……

※続きは隔月刊誌『介護人財』2020年3-4月号をご覧ください。
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