介護士が考える認知症高齢者が暴言や暴力を起こす理由

注記
※本記事は季刊誌『認知症ケア』2020年春号に掲載の「暴言・暴力を予防するコミュニケーションとかかわり方」(執筆者:日本福祉大学 看護学部看護学科 教授 平田弘美)より引用しています。
認知症高齢者が暴言を吐いたり,暴力的になったりすることには,それなりの理由が必ずあります。2013年に筆者は,介護老人保健施設で働く介護士を対象にアンケート調査を行いました。ここでは,「どうして認知症利用者が暴言を吐いたり,暴力的になったりするのか?」について,彼らが回答してくれた発生要因を紹介します(図)。

認知症であることからくるストレス

認知症の中核症状として,記憶障害(いわゆる物忘れ),見当識障害(日付,時間,場所,人などが分からなくなること),思考や判断力の低下などが挙げられます。また,失語(言葉のやり取りが困難)や,失行(道具を適切に使うことができない)などの障害が現れる場合も あります。

認知症高齢者が施設などに入所し,自分が置かれている状況が理解できないまま,知らない人(介護者)に風呂場やトイレに連れていかれ,服を脱がされたり,ズボンを下げられたりしたら,恐怖を感じるかもしれません。

また,女性の利用者が男性の介護士に排泄の世話や入浴介助をされ,恐怖や不快感をうまく表現できないということもあるでしょう。 その場合に,暴力という手段で自分を守ろうとするかもしれません。

65歳以上の有訴者率上位の自覚症状として,腰痛や手足の関節の痛みが挙げられています。もし,認知症高齢者に腰痛や手足の関節痛があり,介護者がそれを知らずに無理にトイレまで連れていこうとしたら,自分の思いや感じていることをうまく言葉で表現できない認知症高齢者は,介護者の手を振り払ったり,暴言を吐いたりして抵抗するかもしれません。

介護者の態度やケア

このアンケート調査で介護士は,認知症高齢者をケアする介護者の態度やケアが引き金となって暴言・暴力を引き起こすのではないかと回答しています。一番多かった意見は,「(言葉遣いが悪い, 利用者を尊重しないなどの)介護者の悪い態度」が,認知症高齢者の暴言・暴力を引き起こすのではないかというものでした。

次いで,介護者が「利用者の思いを理解しようとしない」「利用者のしてほしくないことや嫌なことをする」「利用者の行動を制限する」「利用者への説明不足,または利用者の許可なしにケアを実施する」「利用者のペースに合わせないでせかす」などが挙げられました。

施設で暮らすストレス

認知症高齢者が「もともと攻撃的な性格だったのではないか」「今までの生活歴が攻撃的な性格にしたのではないか」という意見もありました。また,施設で暮らすという環境が,認知症高齢者の暴言・暴力を引き起こすのではないかという意見もありました。

「慣れない環境や環境の変化による不安」「騒音やその施設でのルールなど施設で暮らすストレ ス」「他利用者の行動や大声」「スタッフの勤務交代などの周囲の騒音」「(家族と暮らしたいのに)施設で暮らすことへの不満」などが引き金になるのではないかということです。

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