腰・膝を痛めない立ち上がり介助

注記
※本記事は季刊誌『認知症ケア』2019年冬号に掲載の「腰・膝を痛めない利用者にも優しい介護技術」(執筆者:一般社団法人 幸せ介護創造ファクトリー 代表理事 髙山彰彦)より引用しています。

立ち上がり動作とリスク

「立ち上がり動作」は,歩行をはじめとする移動や乗り移りの基本となる動作です。この動作は,上下動を伴うことから介助者・利用者双方の負担も大きくなります。特に高齢者は,加齢に伴い,筋力やバランス感覚,視力の低下が見られ,それらが原因の転倒が増加します。

さらに,認知症や脳血管障害の後遺症などがある場合,失行や失認などの認知機能障害が原因となり,転倒のリスクはより高まります。自立・要介助を問わず,さまざまな事故が起こりやすい動作と言えます。

また,立ち上がり動作だけでなく,座る動作も困難になります。骨粗鬆症になった場合,くしゃみをしただけで腰椎圧迫骨折が起こる場合もあります。ゆっくり座る動作ができなくなってくると,尻もちをつくような座り方になり,肘掛けに臀部をぶつけたり,座面に臀部が届かず滑り落ちたりとさまざまな事故が起こりやすく,打撲や骨折などにつながります。

よくある間違いとして,利用者の足の間に介助者の足を入れて体を密着させる介助方法(写真1)があります。これは,上に持ち上げるような動きになり,この時に最も腰痛が起こりやすくなります。当然,利用者も苦痛を感じます。また,介助者より利用者の身長が高い・体重が重い場合などは,この方法では困難です。

正しい立ち上がり介助の基本動作

正しい立ち上がり介助は,「人間本来の動き」に基づいた方法で行います。では,「人間本来の動き」とはどのような動きなのでしょうか?
■立位の準備(立位のメカニズム)
立位をとるには次の3動作が重要です。①座位を浅くする ②足を引き寄せる ③前傾姿勢(前かがみ)になる。①座位を浅くする,②足を引き寄せることにより,足に体重を移しやすい姿勢をつくります。この準備を行うことによって,自分で立てる人も全介助の人も 最小限の力で立ち上がり動作を行うことができます。

座位が深いと,頭を大きく移動しなければ臀部が浮きません。つまり,立位に移行するために大きな力が必要となります(写真2−Ⓐ)。座位が浅いと,少ない頭の移動距離で臀部が浮きます。つまり,少ない力で立位に移行できます(写真2−Ⓑ)。

また,人は立つ時に必ず頭を下げるようにします。この③前傾姿勢は,立位をとる時に不可欠です。認知症やパーキンソン症候群などでは,前傾姿勢になる動きが失われることによって,筋力が残っているのに立てなくなる場合があります。
■介助方法
①座位を浅くする(写真3)
まず,上半身を横に倒します。次に,重心が浮いた方の骨盤を前に回すようにして臀部を移動させます。回転させるように前に動かすのがポイントです。この時,臀部に指先が触れると不快なため,指先が触れないようにします。介助者は倒れた方に立ち,転倒を防ぎます。また,滑りすぎないように膝を合わせておくと,より安全に行えます。

円背(腰が曲がる)などによって前傾姿勢になってしまっている場合(体重が前方向にかかっているため,動きにくい)は,利用者の上半身をやや後ろにもたれるようにし,上半身全体を横に倒すことにより,しっかり臀部が浮き,骨盤が回転しやすくなります。
②足を引き寄せる(写真4)
土踏まずのあたりに体重が乗ることで,最小限の力で立ちやすくなります。よって,足を引き寄せる際は,膝の真下に土踏まずがくるようにします。

真上から膝を見て,つま先が見えている程度が最も立ちやすい位置です。足の甲まで見えていると足が引けていないので,少ない力では立てません。逆に,つま先が見えていなければ足を引きすぎているため,立ち上がりに大きな力が必要となります。
③前傾姿勢(前かがみ)になる(写真5)
頭が膝よりも前に出ることで,臀部が浮 きます。座位を浅くしておいたことによって,少ない前傾で立つことができます。
■手すりの活用
手すりを使う際,次の2点を実施することで,手すりを引き寄せる力を使い, 少ない力で立つことができます(写真6)。
また,介助者が入るスペースもできるので,介助がしやすくなります。
・立つ時と座る時は手すりの低い所を持つ(立った後は高い所を持つ)
・前傾姿勢になれるまで手すりから離れる
手すりに近づき高い所を持った場合,体が直立し前傾姿勢になれず,立ち上がりが困難となります。また,介助者が入るスペースもなくなることから,利用者を力で持ち上げるような介助になってしまいます。立位用に長めの縦手すりを設置する理由は,この2点を活用するためです。手すりの正しい使い方を知って活用しましょう。




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