注記
※本記事は隔月刊誌『達人ケアマネ』2020年2-3月号に掲載の「要点を押さえた効率的な支援経過記録の書き方活かし方」(執筆者:合同会社鐵社会福祉事務所 代表社員 てつ福祉相談室 管理者 主任介護支援専門員 社会福祉士 鐵 宏之)より引用しています。
介護保険法における居宅介護支援の根拠
居宅介護支援における記録(居宅介護支援経過第5表,施設は第6表)の根拠通知として老企29号(平成11年11月12日厚生省老人保健福祉局企画課長通知第29号)があります。そこには,「モニタリングを通じて把握した,利用者やその家族の意向・満足度等,目標の達成度,事業者との調整内容,居宅サービス計画の変更の必要性等について記載する。漫然と記載するのではなく,項目毎に整理して記載するように努める」と記載されています。介護保険制度が始まり20年が経ちますが,制度創設期の通知は現在も変更されておらず有効なものです。この点をケアマネジャーはまず理解する必要があります。
実務者研修テキストの内容
介護支援専門員実務者研修で使用されるテキストである『六訂居宅サービス計画書作成の手引』(長寿社会開発センター)には,「居宅介護支援経過は,介護支援専門員が専門職として残す記録です。この第5表は,介護支援専門員として利用者・家族,各種サービス担当者,関係機関との専門的な関わりを通じて把握したこと,判断したこと,調整が難航し持ち越したことなどを整理してわかりやすく記載しましょう。単に支援が継続していることの確認だけでなく,常に総合的な援助の方針,ニーズ,目標,サービス内容など居宅サービス計画の進行状況と目標の達成度,居宅サービス計画の見直しの必要性が生じているか確認する視点が大切です」と記載されています。根拠通知である老企29号を踏まえたものであり,どちらも「整理して分かりやすく記載する」「漫然と記載しない」こととしています。
バラバラな記録の書き方
私は埼玉県介護支援専門員更新研修(専門Ⅰ・Ⅱ)のファシリテーターとしてかかわっているほか,各地のケアマネジャーに向けて生活支援記録法の勉強会を開催していますが,ケアマネジャーの記録はどれも個性的です。長文で出来事を中心に書く方もいますし,1,2行程度の短文の方もいます。利用者や家族の言葉やそのやり取りを書く方もいます。しかし,すべて読まなければ内容が分からない記録,情報量が不足している記録,ケアマネジャーがどのような実践をしているのか,その根拠が分からない記録ということは多くの場合に共通しているように思えます(表)。なぜ,このような現状になっているのでしょうか。私なりに考察してみます。基礎資格における記録の学びの機会がない
少し古い資料になりますが,「平成28年3月16日介護給付費分科会資料 居宅介護支援事業所及び介護支援専門員の業務等の実態に関する調査研究事業」では,介護支援専門員の保有資格について,制度創設期において割合の多かった看護師が9.6%まで減少し介護福祉士が59.3%へ増加,社会福祉士も11.1%まで増加しており,介護福祉士と社会福祉士を合計すると70%を超えるとされています(全数調査ではない)。介護福祉士養成カリキュラムでは,介護過程において「思考の文章化」「実践のプロセス」を意義として記載されています。書き方として①正確で客観的,②他者に伝わりやすくする,③サインや捺印とされています。
社会福祉士養成カリキュラムにおいては,相談援助の過程にそれぞれ記録についての項目があります。このテキストでは,客観のみでは事実の羅列の記録になり,事実の背景を憶測すると主観が中心になるため,その両立が必要であることを述べています。書き方としては,①5W1Hを踏まえて記載すること,②内容によって記録の形式を変えること,③事実を書くこと,④計画に沿って必要なもののみを書くこと,⑤意図的な働きかけと反応を書くこと,⑥社会的責任を自覚することを挙げています。
テキストによる違いはありますが,介護福祉士,社会福祉士どちらも記録の意義や目的を示しています。しかし,どちらのテキストでも具体的な書き方は示されていません。これは,介護や福祉分野には標準的な記録法が存在しないためです。
対して,医師や看護師においては標準的な医療記録として問題志向型記録(POR=Problem Oriented Record,SOAP記録)やフォーカスチャーティング®が教育段階で導入されています。最近では,薬剤師の薬歴としても導入されるようになっています。
介護職,福祉職は,記録の意義は示されているものの,記録法がないために書き方を学んでいない状況で現場経験を積みます。職場においても,記録の書き方が分からない上司や先輩に教わることになります。このような要因が介護,福祉分野に存在していると思われます。
介護支援専門員の法定研修における記録の取り扱い
介護支援専門員の法定研修には,記録に関するカリキュラムは存在しません。これは実務者研修,専門Ⅰ・Ⅱ研修,主任介護支援専門員研修においても同様と言えます。基礎資格を用いての実務段階で記録の書き方が曖昧であり,さらに居宅介護支援においても記録の意義や役割,書き方が分からない状態が続き現在に至っていることが,ケアマネジャーの記録がバラバラなことに拍車をかけているのではないでしょうか。
また,実地指導やケアプラン点検において,行政側が老企29号を踏まえず指導しやすい記録の書き方を指示している可能性もあります。具体的には「利用票交付」「○○加算を算定」のような文言です。「自立支援」という文言を記録に盛り込むよう指導している行政もあると聞いたこともあります。もちろん,運営基準や加算の算定要件に適合しているかどうかを示すことも記録の役割としては重要です。しかし,ケアマネジメント実践の証明としての記録の意義や役割が軽視されているのではないかと感じます。
(※続きは隔月刊誌『達人ケアマネ』2020年2-3月号よりご覧ください。)
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