特養に入所希望している高齢者はどこにいるのか?

注記
※本記事は季刊誌『地域包括ケア時代の通所&施設マネジメント』2020年2月配本号に掲載の「特別養護老人ホームの新規利用者の居場所と入所マネジメント」(執筆者:社会福祉法人竹恵会 介護老人福祉施設けんちの里 相談室係長/生活相談員 渡辺崇)より引用しています。

◆特別養護老人ホームの入所マネジメントの変遷

年金,健康保険に続く新たな社会保障として介護保険制度が施行され,まもなく20年目を迎えようとしています。そして,介護保険制度の中心的役割を果たす特別養護老人ホーム(以下,特養)の20年を振り返ると,時には応能負担を求める施策や,運営のあり方に影響を与える施策,職員の処遇に関する施策など,時間をかけながら制度からの意向に応じる形で今日まで運営されてきました。

そして,現状の特養の運営に大きな影響を与えた施策が,2015年4月に打ち出された「入所申し込みは原則要介護3以上」と「日常生活継続支援加算」(以下,施策と加算)の導入です。この施策と加算が示されてから,特養は重度者対応に舵を切ることが制度から求められたのです。

施策と加算が導入されて4年が経過した現在,減少傾向にある待機者の中からどのように新規入所につなげればよいのでしょうか? 近隣施設との競合が増している中で,継続的に日常生活継続支援加算を算定するためには,施設の待機者状況と算定要件を理解しながら新規入所をマネジメントする取り組みが求められるようになったのです(図)。

◆施策と加算の影響

特養のあり方を大きく変えた施策と加算の影響として,「特別養護老人ホームの入所申込み者の状況」,「東京都内特別養護老人ホーム入所(居)待機者に関する実態調査(平成29年度)」などで,待機者が減少している事実が報告されています。

ほかにもさまざまな形で報告されていますが,見逃せないのが施設整備の拡充です。待機者の減少は施策と加算の影響だけではなく,急速に進められた施設整備により他施設との競合が発生し,新規入所の困難さに拍車をかけているということです。

東京都内の特養の施設数について,公表されているデータで確認したいと思います。介護保険法が施行された2000年は303施設,定員は2万7,208人でした。かつては,西高東低とも言われた東京都の特養の整備状況ですが,行政の保有地や学校の跡地なども含めて施設整備を行った結果,2019年(4月)の時点で,施設数は533施設,定員は4万8,127人まで整備されたのです。

制度施行時と比較すると,約20年の間に230施設,2万919人分のベッドが増えました(表1)。 また同時に,遠方でないと探せないと言われていた特養の入所が,「自宅の近隣地域で探す」という待機者のニーズの変化を起こしたとも考えます。

待機者自身が多くの施設に申し込みをかけますが,「早急に」と「時期が来たら」というカテゴリーを基に,「居室形態」「立地」「費用」「評判」などの条件のもと,施設を明確に選別していく傾向が強まったのだと思います。その結果,住所地枠は形骸化し,整備が進められた地域では,近隣施設同士で待機者の取り合いが起こるなど,東京都内全体の待機者状況を一変させたのです。

◆実際に施設入所を希望している高齢者は?

先に挙げた報告では,家庭からの入所と介護老人保健施設(以下,老健)からの入所が新規入所の約6割を占め,特定施設や医療機関からの入所も増えつつあると報告されています。

ロングショートやお泊まりデイなどで特養を待機している方もおり,実態が見えづらいので数値が追えないのですが,東京都の要介護認定者数を中心に特養・老健・居宅サービス受給者数を集めてみると表2のようになります。

要介護3以上を見てみると,居宅サービス受給者は12万1,351人おり,老健入所者は1万5,785人います。近い将来,この方たちが特養に入所する確率が非常に高いのだと思います。

待機者が少ないという話ばかりではなく,視点を変えれば,まだこれだけ入所につながる可能性が高い方がいるのです。ただし,待機者のニーズは近隣で探したいという傾向が強まったこともあり,人口過密地域(東京23区)などは待機者が存在するでしょうが,23区以外の市町村では,より著しく待機者が減少する地域や施設が発生することも十分に予想されます。

続きは季刊誌『地域包括ケア時代の通所&施設マネジメント』2020年2月配本号をご覧ください


■関連ページ■


コメント