“穏やかな死”とは

注記
※本記事は隔月刊誌『介護人財』2020年1-2月号に掲載の「介護施設における“穏やかな死”とは」(執筆者:東京有明医療大学 看護学部 看護学科 大学院看護学研究科 教授 川上嘉明ほか)より引用しています。

介護施設での死亡数が高齢者死亡の10%を超え、さらに増加しています。また、今後は一人暮らしの高齢者の増加、家族介護者の減少といった理由から、介護施設で死亡する高齢者数はさらに拡大すると予測されます。

しかし、特別養護老人ホームのサンプル調査によれば、約16%の施設は原則として看取りを行っておらず、介護報酬の看取り加算を算定するためには、「介護職員の知識・技術の向上」「配置医との関係強化」「夜間、休日の職員体制の充実」などが必要であるとされています。

“穏やかな死”とは

「穏やか」であるとは、安らかで落ち着いている、物静かであることでしょう。

大切な人を看取ることになった家族は一様に「最期はできるだけ苦しまないように…」と気持ちを打ち明けます。施設での看取りの真髄は、死に至る高齢者ができる限り苦しむことなく、穏やかな状態を具体化することにあります。

介護施設でケアを受ける高齢者は、予備能力が小さくなり、わずかなストレスでもホメオスタシス(生命の恒常性)が崩壊し、機能障害や死につながるフレイル(Frailty)の状態にあります。

そして「壮健」「健常」という状態ではなくなったフレイルの高齢者において、その「生命の時間」を延ばすことが「苦痛」を強め「穏やかさ」を損なうことがあります(図1)。

萬田緑平医師は「僕の感覚で言わせてもらうなら治療の効果より苦痛が上回ったら、撤退したほうがいい。(中略)受けている治療が身体に効果をもたらしているとき、それほど大きな苦痛は生じないものです」と述べています。

撤退とは、生命の時間を延ばすための治療から身を引くということです。同じように、「生命の時間を延ばすためのケアや介護の効果より苦痛が上回ったら、撤退した方がいい」と考えることもできます。

施設介護では、こうした生命の時間を延ばす「ケアや介護の効果」より「苦痛」が上回る「臨界点」または「分水嶺」を見極めていくことが大切です。

そして、食事や運動といった自立や生命維持のためのケアから「寒くも暑くもなく、口の渇きが癒され、寝具の中の空気を入れ替え、湿った衣類が着替えられて…」といった生活のこまごましたことを整え、できる限りその高齢者にとって心地よい状態、「最も良い状態に高齢者を置く」ことが重要となります。



※続きは隔月刊誌『介護人財』2020年1-2月号をご覧ください


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