BPSDのとらえ方

注記
※本記事は隔月刊誌『臨床老年看護』2019年11-12月号に掲載の「認知症の人の体験世界を読み解くケアの引き出し」(執筆者:グループホームせせらぎ ホーム長 看護学博士 堀内園子)より引用しています。

認知症ケアで直面する大きな課題の一つがBPSDです。不機嫌・怒り・暴言,拒絶・拒否,妄想・幻視,絶え間なく上げる大声などは,「認知症の人の力になりたい」と心から思っているケアのプロフェッショナルたちを戸惑わせ,怯えさせ,時にはうんざりさせ,最悪な状況となると認知症ケアに取り組む気持ちを挫き,ケアへの情熱を奪います。

BPSDに直面した時,このように感じたことはありませんか?
・なぜこの人は,こんなに頑なにお風呂を嫌がるのだろう? お風呂に入って体を温めたら,きっと気持ちよくなるのに…。どうしたらよいのだろう?
・何度トイレに誘導しても,すぐにトイレに行きたがる。誘導しても排尿はないのに…。こっちも疲れちゃう。誰か代わってくれないかな。
・今日もあの人は「食べ物に毒を盛られた」と言ってご飯を食べないのだろう。人を疑うような目でじっと見つめて。あの人に会うのがつらいな。
・毎日大声で叫び続けて,疲れないのだろうか? 「おーい,おーい」と声を上げるから,応えたいと思うけれど,あの人だけにかかりきりになれない。

BPSDは,かかわる人にとって理解できないような言動・思考が多く,結果として,認知症の人とかかわる人との間に大きな心の隔たりを生み出します。

一体,なぜ認知症の人は怒ったり拒否したりするのでしょうか? その理由が少しでも見えてきたなら,認知症の人のケアの手がかりになるのではないでしょうか?

BPSDは,行動面の症状と心理面の症状とに分けられます(表1)。
行動症状:落ち着かずにせわしなく歩き回ったり,絶え間なく頭をかきむしったり,皮膚を掻き続けたりするなどの焦燥感を示す動作,激しく相手を罵倒したり,嫌味を言ったりするなどの攻撃的な行動,拒絶・拒否,食行動の異常,睡眠覚醒障害
心理症状:妄想,幻視・錯視,誤認,無関心や怒りなどの感情面の障害

BPSDを読み解くには,目の前にいる認知症の人の言動から,どのタイプの症状が出ているのかを見極めることが大切です。1人の人が持つ症状は1つとは限りませんが,まず現れている症状を整理することが解決の糸口になります。

次に,BPSDが生じる背景について見ていきましょう。認知症の当事者は,病により少しずつ変わっていく自分への不安や恐怖といった「病感」を持っています。変わっていく自分に不安を覚えながら,一方で,どうにかその不安と折り合いをつけようと努力し,頑張っているのです。

しかし,その頑張り方が,時に周囲との摩擦を生み,変わっていく自分に暮らす環境がそぐわない場合に不適応を起こし,悪い反応を起こしてしまうのです。周囲にあれやこれやとお節介を焼かれたり,指示を受けたり,間違いを正されたり,時には失笑されたりすることが,強い刺激となって認知症の人の心身を突き刺します。

人とのかかわりだけではなく,広すぎてとらえどころのない空間に取り残されたり,BGMに囲まれ,眩しい光や人混みなどの情報過多の場に身を置いたり,読みにくい文字表記などに囲まれたりする物理的環境の刺激も認知症の人にとってはつらく,それに抗う反応としてBPSDが現れます。

BPSDをとらえるには,症状を整理しながら,本人を取り巻く人のかかわりのあり方,環境のあり方を見直す必要があります。



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