認知症高齢者に対するアクティビティ・ケア

注記
※本記事は隔月刊誌『臨床老年看護』2019年11-12月号に掲載の「認知症高齢者のアクティビティ・ケアの実践」(執筆者:デイサービスセンターお多福 統括管理者 高橋克佳)より引用しています。

アクティビティ・ケアの視点

アクティビティ・ケアを一言で伝えることは非常に難しいのですが,簡単に説明すると次のようになります。

ここで伝えるアクティビティ・ケアは,多くの高齢者施設で使われるレクリエーションという言葉の考え方と少し認識が違います。

レクリエーション(recreation)とは,「主として自由時間に行われる自発的,創造的な人間活動をいう。レジャーと異なり,個人の健康を害したり,反社会的とみなされたりする活動は含まれない。スポーツ,音楽,手芸,工芸,文芸,自然探求,演劇,舞踊,社交的行事などさまざまな活動がある(ブリタニカ国際大百科事典)」とされ大きな幅を持っています。

一方,アクティビティ・ケアとは,レクリエーションのように自発的,創造的な人間活動をしていただくために,高齢者にこれからの時間,何が待っているのか? と期待し胸を躍らせる「わくわく感」や「ドキドキ感」,さらには「満足感」を感じてもらえるような,芸術・文化・歴史・遊び・仕事などの活動を提供することです。

また,活動にとどまらず,日常いつも行っていた生活習慣などを,施設や病院などの違う場所でも安心してできるよう介護者が工夫して認知症高齢者に提供することも「アクティビティ・ケア」や「アクティビティの視点」としています。

認知症高齢者の「その人らしさ」とアクティビティ・ケア

「その人らしさ」は,生活すべてにあります。

認知症高齢者は,認知機能障害によってさまざまな情報が間違って認識されたり,理解できなかったりと,今まで何の迷いや不安もなく行えていた行動ができにくくなっています。

一方,昔ながらの習慣や癖,日常生活での決まった作業には比較的柔軟に対応できることが多く,認知症高齢者に対する「その人らしさ」は,職歴や趣味だけに限らず,日常生活での手続きの決まった作業,普段何となくやってしまう決まった行動も「その人らしさ」と考えます。

朝,目が覚め,顔を洗う人がいます。真冬であっても,お湯よりも冷たい水が目を覚ましてくれる,と思い何十年間も過ごしてきた人に,介護者側が「寒い冬の朝に冷たい水は寒いだろう」と考えてお湯を持っていくと,「なんだかさっぱりしないなぁ」と感じられるかもしれません。

朝食の時間,いつもの湯飲みにいっぱい注がれた渋めの緑茶が「目覚めの一杯!」と思っている人には,朝のモーニングコーヒーは「目覚めの一杯」とはなりにくいと思います。

認知症ではない人は,これらのことを集団生活のルールとして理解し,適応できます。旅行の宿泊施設での滞在時も,通常との違いを楽しむことができるでしょう。

しかし,認知症高齢者は,記憶の障害や見当識障害によって,集団生活のルールや,今どこで,何をしてよいかが理解しにくくなっている場合があります。

また,社会的認知機能障害で他人とのコミュニケーションが上手にとれないなど,集団生活に適応しにくい障害が出てきます。

これらは,認知症の人本人にとってとても不安な状況となります。認知機能障害がなくなったり消えたりすることはないので,不安を抱えながら生活しているということになります。この不安は,大きい小さいと個人差はありますが,自分らしい姿が発揮できない時や,楽しみや集中できる時間がない時などに現れやすいのです。

そのため,「ドキドキ感」「わくわく感」で楽しみがあるという気持ちと,「手続きの決まった活動」で安心して自分らしく過ごすことが認知症高齢者のアクティビティ・ケアの一つとなります。



■関連ページ■


コメント