注記
※本記事は隔月刊誌『訪問介護サービス』2019年11-12月配本号に掲載の「知っているようで知らない?成年後見制度」(執筆者:社会福祉法人桂 カリタス21居宅介護支援事業所 管理者
静岡県立大学短期大学部 社会福祉学科 非常勤講師
認定社会福祉士(高齢者分野)/認定精神保健福祉士/主任介護支援専門員
介護福祉士/認知症ケア上級専門士 飯塚哲男)より引用しています。
成年後見制度の3つの基本理念
成年後見制度とは,一言で言うと「判断能力が不十分な人を保護する制度」です。この成年後見制度には,3つの大切な基本理念があります。一つずつ確認していきましょう。①自己決定の尊重
判断能力が低下しても,生き方を決めるのは本人自身という原則に基づき,本人の意思を尊重し,持っている能力を最大限に活用し,不十分な部分の支援を行います。
②身上保護の重視
財産管理だけにとどまらず,本人の立場に立って生活の組み立てを行います。
③ノーマライゼーション
障がいの有無にかかわらず,可能な限り社会の一員として家庭や地域社会で通常の生活ができるように支援していきます。
成年後見制度施行の背景
成年後見制度は,1999(平成11)年の民法改正に伴い,2000(平成12)年4月に施行されました。介護保険制度導入と同じタイミングです。それまでにも成年後見制度に似た制度はありましたが,それは民法で100年以上前に設けられた「禁治産」「準禁治産」制度でした。「禁治産」「準禁治産」制度は,財産管理を行う「家制度」を守ることを中心としたものでした。判断能力が不十分な人の権利を擁護し,本人の意思を尊重しつつ,本人の身上保護と財産管理を行う制度へと生まれ変わるべく,国民一人ひとりの状況に応じた柔軟で利用しやすい新しい制度となりました。
成年後見制度へと移行していった背景として,日本の超高齢社会(施行当時は高齢社会)の進展,国際的ソーシャルワークの影響などによる社会福祉基礎構造改革時代が到来した点が挙げられます。
前述のとおり,成年後見制度は介護保険制度と同じタイミングで施行されました。介護保険制度導入により,福祉サービスの利用は,それまでの行政処分である「措置制度」から,サービスを受ける本人の意思で選択できる決定とした「契約制度」へ移行しました。
しかしながら,介護保険制度を施行する上で,判断能力が不十分な人は「契約」という法律行為が困難な状況が浮き彫りとなりました。そのため,成年後見制度のさらなる普及が早急に取り組むべき課題となったのです。
成年後見制度の利用状況
成年後見制度を利用している人は,218,142件(2018年度)となっていて,全国的に年々増加しています。後見開始の原因別割合は,次のとおりです。
認知症:63.4%
知的障がい:9.9%
統合失調症:8.9%
上記のとおり認知症が最も多く,さらに申立ての動機では,預貯金等の管理・解約や身上監護が多いです。
成年後見制度の対象者
成年後見制度の対象となるのは,「成人で認知症・知的障がい・精神障がい等があり,判断能力の低下が認められる人」です。さらに成年後見制度は,本人の生活や財産を守り,支えるために「任意後見」と「法定後見」に大別することができます(図1,2)。では,どのような違いがあるのか見てみましょう。
●任意後見制度(図3)
将来,自分自身の判断能力が低下した場合に備えるためのものです。判断能力がしっかりしている時に,本人自ら,自分の判断能力が低下した場合に後見人となってサポートしてくれる人を選び,その人と契約しておくことができます。そして本人の判断能力が低下した時点で,あらかじめ契約しておいた人が本人の任意後見人となり,契約に沿って保護・支援を行います。
契約を結ぶためには公正証書が必要となります。費用(公正役場の手数料・印紙代・登記委託料・書留郵便料・正本や謄本の作成手数料など)は,最低でも15,000円程度かかります。本人の判断能力が低下してきたら,裁判所が選任した後見監督人のもとで,任意後見人として職務を行うことになります。任意後見監督人は,任意後見人の活動内容を確認します。
●法定後見制度
法定後見制度は判断能力が低下し,契約等の法律行為ができなくなるなど本人の生活に支障が出た場合,本人や親族などが家庭裁判所に申立てを行うことによって利用できる制度です。法定後見は利用対象者の判断能力によって,「補助」「保佐」「後見」の3類型に分かれています(表)。
家庭裁判所は,本人の判断能力の程度に応じて,成年後見人等(補助人・保佐人・成年後見人)を選任します。選任された成年後見人等は,本人の利益を考えながら,その人らしく安心して生活できるよう支援していきます。成年後見人等は,法的に権限が与えられた法定代理人です。本人の気持ちを大切にして身上保護,財産管理などを行っていきます。 制度利用の流れは,図4のとおりです。
まず,家庭裁判所への申立てが必要となります。申立てができるのは,本人(補助や保佐の申立ての場合が多い),配偶者,4親等以内の親族(本人の親・子・孫・ひ孫・祖父母・兄弟姉妹・おじ・おば・いとこ・甥・姪など),市区町村長(本人に親族がいない場合や,いても協力が得られない・申立ての行為ができる人がいない場合など)です。特に近年,身寄りのない人や親族の支援を受けられない人が増加しているため,全国的に,市区町村長の申立件数が増加傾向にあります。
申立てにあたって必要なものは,次のとおりです。
①申立書および付票
②診断書等(成年後見用)
③戸籍謄本(本人)
④住民票(世帯全員分,省略のないもの)
⑤登記されていないことの証明書(成年後見に関すること)
⑥本人情報シート
⑦その他(収入印紙,郵便切手,印鑑など)
なお,本人情報シートとは,本人の生活状況などを記載するものです(ホームヘルパーなどの福祉関係者によって作成されることを想定しています)。診断書作成における医師への情報提供や家庭裁判所の裁判官が活用します。家庭裁判所によって必要書類が若干異なります。申立てを行う家庭裁判所で確認が必要です。
成年後見制度に関する費用および期間
成年後見制度に関する費用は,家庭裁判所の調査によって,医師による鑑定が必要と判断された場合は,別途,医師に支払う鑑定料がかかります。鑑定料は一般的に5万~10万円程度です(ケースによって異なります)。また,審判までの期間は,概ね1~3カ月程度とされています。家庭裁判所が申立書を受け付けた後,家庭裁判所による調査(親族などへの照会や,本人との面会など)が行われることがあります。本人の判断能力について確認が必要な場合には,医師による鑑定を求められることがあるため,個々のケースによって期間は異なり,3カ月以上を要する場合もあります。
申立てには,精神的な労力と時間を要します。そのため,家族や親族のみで結論づけるのではなく,何らかの相談機関へ行くことをお勧めします。相談窓口として,次のようなものが挙げられます。
・市町村役場
・地域包括支援センター
・障害者相談支援事業所
・成年後見センター
・権利擁護センター
・高齢者・障害者総合支援センター
・リーガルサポート
・社会福祉士会権利擁護センター「ぱあとなあ」
・法テラス(日本司法支援センター) など
●成年後見人等に選任されるのは
家庭裁判所が本人の状況に応じた成年後見人を職権で選任します。配偶者,親,子,兄弟姉妹,その他の親族等の親族後見人だけでなく,市民後見人や専門職後見人(弁護士・司法書士・社会福祉士等の国家資格を持った専門家)も選任されます。全国的に,専門職後見人が70%を超えています。
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