注記
※本記事は隔月刊誌『達人ケアマネ』2019年10-11月号に掲載の「ケアマネジャーとして確実に押さえておきたい実地指導の変更点【前編】」(執筆者:ツツイグループ 医療法人徳寿会
顧問兼コンプライアンス室 室長
一般社団法人神奈川県介護支援専門員協会 副理事長
沖縄県子ども生活福祉部高齢者福祉介護課 統括アドバイザー 松川竜也)より引用しています。
2019年5月30日に,厚生労働省老健局総務課介護保険指導室より「介護保険施設等に対する実地指導の標準化・効率化等の運用指針について」(以下,指針)が出されました(資料)。
これは,2018年度の厚生労働省老人保健健康増進等事業における「実地指導の効率性の向上に資する手法等に関する調査研究」「実地指導における文書削減に関する調査研究」等において,自治体,事業所の双方が個別の指摘事項の改善等を通じ,事業所運営の改善につながっていること,指導の標準化を図ることによって自治体および事業者双方の事務負担の軽減が図られ,より効率的な実地指導が可能となることが報告されており,全国の自治体ごとに指導の内容や確認項目・確認文書にさまざまな差異が生じていると共に,一部の自治体においては実地指導の実施が低調な状況が見受けられる中で,より多くの事業所に対して実地指導を行うことが介護保険制度における介護サービスの質の確保,利用者保護等に資すると考えられることから,指導の標準化・効率化および指導時の文書削減を図り,実地指導の実施率を高める観点より改めて定められました。
指針の内容として,かつては「主眼事項・着眼点」の項目に基づいて実地指導が行われたこともありましたが,平成17年の介護保険法(以下,法)改正により指導監督事務が明確化されたこと等を踏まえて,廃止されました。
しかしながらその後も,「主眼事項・着眼点」の項目に準じて実地指導が行われていることが見受けられました。この「主眼事項・着眼点」の項目では,居宅介護支援については約100項目ありましたが,今回の運用指針では約25項目になっています。つまり,一部の項目や文書を確認しないこととなりますが,これは,実地指導の効率性を向上させ,より多くの実地指導を行うことが重要と考えられることから削減されています。
実地指導は,各事業所における利用者の生活実態,サービスの提供状況,報酬基準の適合状況等を直接確認しながら事業者の気づきを促すなど,よりよいケアの実現および保険給付の適正化を図るために有効であり,これまで事業所の介護保険指定の有効期間内(6年間)に最低でも1回以上は実地指導を行うよう,厚生労働省として助言しているところです。
しかし,事業所が年々増加傾向にある中,それができていない現状が保険者によっては見られました。実際に,2017年度における実地指導の年間実施率(都道府県,指定都市,中核市)は全サービス平均17.2%と決して高い数字ではなく,全国平均値を大きく下回る保険者もあるのが現状です。今後も高齢者が増加する中で,さらに事業所が増えることも予測される中,限られた担当職員で指定の有効期限内に事業所に実地指導を行うためには,実地指導と集団指導を併せて効果的に実施するなど一層の効率化を図るだけでなく,標準的な確認項目を用いて1事業所当たりの時間をできるだけ短くすることで,なるべく多くの事業所に対して実地指導を行えるようにすることなどが期待されます。
また,全国の保険者ごとに実地指導の際の指導の内容が異なる,いわゆる保険者ごとの “ローカルルール” が見られたり,実地指導における確認項目・確認文書にさまざまな差異が生じたりしていることなどからも,実地指導で確認する項目を標準化することでこのような保険者による差が起こらないようになることが期待されます。
介護保険事業所における介護報酬の請求権は2年間ですが,報酬返還等の場合は5年間となります。年々増えていく介護保険事業所に対してなかなか実地指導ができず,場合によっては実地指導に5年以上入ることができずに,報酬返還等の時効となる5年以上が経過してしまうことがあります。そのことにより,請求で適正な請求ではない事項が見られた場合,過去に遡って適正な請求となるよう返還を求めますが,5年以上前の請求に関して返還がされない場合が起こってしまいます。
介護保険は,国,県,市町村,被保険者の保険料等が財源となっていますが,5年を過ぎたことにより,利用者や行政が払い過ぎた保険料等を返還してもらえなくなるため,保険者はこのようなことが起こらないようにするためにも,少なくても介護保険事業所指定の6年間で1回は実地指導に入れるよう,今回運用指針に基づく標準項目や確認文書が示されたわけです。
したがって,今後は今までよりもより高い年間実績数で実地指導が行われると共に,短い期間で実地指導が行われる頻度が上がることが予測されます。すでに,2019年度は今までにない件数の実地指導が行われており,さらに以前とは違い,前回の実地指導から短い期間での実地指導が行われている保険者もあります。
「ここ数年の間に実地指導があったから,しばらくは来ない」などという勝手な判断はせず,常に法令に基づいた運営を行うようにしましょう。
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