心が通い合う認知症ケア

注記

※本記事は書籍『心が通い合う認知症ケア』（著者：認知症専門ナースケアマネ市村幸美）の巻頭言より引用しています。

認知症ケアは，この10年ほどで大きく進歩しました。筆者も現場に携わりながら，認知症の人を取り巻く環境や認知症ケアの質が大きく向上したと感じますし，認知症に興味を持つ専門職が増え，全国各地でセミナーや研修会が行われたり，書籍も増えたりしていることをうれしく思います。

しかし，認知症と診断がついているだけで，面倒な人というレッテルを貼られたり，本人の意思が尊重されなかったりして，「認知症があることによる不利益」を受けている人は今でも大勢います。

認知症の人と初めてかかわった人は「どうしてこんなことをするのだろう？」と疑問を感じる場面がたくさんあると思います。認知症の人とのコミュニケーションが難しいこと，ケアの結果が表面的に分かりにくいことなどから，認知症ケアを苦手だと感じてしまう人もいます。しかし，認知症ケアの「どうして？」の背景が分かるようになると，認知症の人の行動を納得できるようになり，楽になる場面が多くなります。

本書は，認知症がどのようなものであるかを知ってもらうことで，認知症に興味を持ち，認知症に肯定的に向き合うこと，そしてマニュアルを求めるのではなく，認知症ケアの方法を自分で考えられる力をつけてほしいと願って書きました。

認知症ケアに特別なスキルは必要ありません。人としての在り方，専門職としての在り方，認知症の人と誠実に向き合う姿勢，このようなことが重要なのです。そして，認知症は進行する病気であると冷静に受け止めることも大切だと考えています。どのように進行していくのかを予測しながら，認知症の人に「今，大切にしてもらえている」と感じてもらえるような心地良さを提供できることが，“心が通い合う認知症ケア”ではないかと思っています。認知症ケアに限ったことではありませんが，ケアする人の気持ちが楽であることが，結果としてケアを受ける人の気持ちを楽にすることができると筆者は思っています。

本書が認知症ケアに悩んでいる人やより良いケアを提供したいと考えている人のお役に立つことができれば幸いです。そして微力ながら，認知症の人が不利益を受けない社会をつくることにつながることを願っています。

2018年３月

認知症専門ナースケアマネ
市村幸美