地域活動の実際と効果

注記
※本記事は季刊誌『地域包括ケアを担うケアマネ&相談員』2019年5月配本号に掲載の「和が家介護グループの認知症ケア、予防ケア、地域ケア」(執筆者:和が家介護グループ 代表 直井誠)より引用しています。

行政や地域への周知

いざ,介護施設が「地域活動を行いたい」「地域の役に立ちたい」と思っても,なかなか介護施設に周囲の住民が来てくれるわけではありません。ですから,まずは行政の開催する認知症サポーター養成講座やオレンジカフェや認知症予防講座の開催のほか,地域の自治会で積極的に認知症の話をしたり,認知症予防の訓練をしたりしました。

また,施設内でも認知症予防と認知症ケアを実践として日々行うことにより,実際に利用者が維持・改善している事例も多数あります。そこで,それを強みとして,「認知症関連の講座なら和が家介護グループにお願いすると協力をしてくれる」という理解が行政や地域で得られるよう尽力しました。

何より大切なのは,地域で継続的に活動を行う上でのベースをつくるため,まずは地域の困り事は何でもお手伝いするという視点を持つことです。それが私たちの場合,「認知症」というテーマであれば地域の役に立てるというイメージが伝わり,今ではそれが当たり前のように行政・地域包括支援センター・社会福祉協議会に知れ渡っているのではないかと思います。

地域での活動例

①「ケアニン」の上映会

こうして,地域の教室などで講座を行っているうちに,市民全体に「認知症の理解」を深めていく機会を得ました。それが認知症を題材にした映画「ケアニン」の上映会です。この映画を初めて見た時,私はこれまで研修や教室で認知症のことをたくさん話してきましたが,この映画ほど普及啓発できるツールはないと感じました。そこで,埼玉のデイサービス経営者の友人と「ケアニン普及委員会埼玉」を立ち上げ, 地元の市民や専門職,子どもたちに認知症の啓発目的で「ケアニンの自主上映会」を開催することにしました。

当初は地元では1人の協力者と,また当グループのスタッフで普及活動を行っていましたが,徐々に賛助者が地域にも現れ,さまざまな市町村でケアニンの自主上映会を開催することができました(写真3)。上映会を開催するため,行政の講演や自治会回り,施設回りを繰り返しました。その結果,地元の上尾市では約500人,桶川市では約400人,北本市では300人以上の人が集まり,その普及の輪が広がっていきました。

この映画の普及活動だけでも,同地域で1,200人の方々に視聴してもらえたことになります。2019年は在宅医療・介護連携の映画「ピア」の上映も行っていきます。

②お祭りでの「みまもりあいアプリ」の普及

地元で認知症の人の行方不明事件が多発しており,認知症の人の見守りをどうすべきかが課題であった時,「みまもりあいアプリ」(主催:一般社団法人セーフティネットリンケージ)と出合いました。

みまもりあいアプリとは,簡単に説明すると,アプリをスマートフォンにインストールしてもらい,認知症の人が行方不明になった時にそのアプリで捜索依頼をかけると,アプリ会員に捜索情報が伝わっていくという仕組みで,現在約40万人の会員がいます(みまもりあいプロジェクト:mimamoriai.net)。

「みまもりあいアプリ」を地域に普及させることで,認知症の人が一人歩きした時に見つかる確率を高めることができます。そのための仕掛けとして,地域のお祭りで「大かくれんぼ大会」と称したイベントを数カ所で行いました(写真4)。これは,子どもやその家族にアプリをインストールしてもらい,いなくなった地域の方々を探してもらおうという趣旨のイベントで,地域包括支援センターや地域の商工会,青年会議所の方々や学生の協力を得て,お祭りの各所に隠れてもらい,アプリを通じて参加者に探してもらいました。

このアプリは周囲の福祉祭りなどにも広まり,「大かくれんぼ大会」は地域で広がり,施設の生活相談員がお祭りのブースで見守り合い活動を行うといった事例もつくることができました。

③「ショッピングリハビリ」を開始

蓮田市は,埼玉県の中でも高齢化率が高く,買い物難民や認知症の人が多い街です。そこで,この地域の課題の一つである買い物難民対策と,買い物という外出によりリハビリテーションを商業施設内で一緒にやってしまおうという「ショッピングリハビリ」を始めました。

これは,商業施設内に,総合事業と地域密着型通所介護を兼ねたサロンを設けており,送迎付きで週1~2回程度,リハビリテーションと買い物目的で通所するサービスです(写真5)。これにより,独居高齢者や買い物難民,引きこもりなどの地域課題をより明確に訴求し,地域包括支援センターともより連携が濃密になり ました。

2018年5月に始まったサービスですが,徐々に地域に浸透し,通常のデイサービスとは異なる新しい地域活動の形として注目を浴 びています。

また,商業施設内には相談窓口を設けているため,市民の方々が困った時に気軽に相談できるようになっており,こちらも地域住民と高齢者の買い物課題を解決する地域連携拠点として力を入れていく予定で,他の自治体からの視察 も増えています。

その他の活動例

ほかにも,認知症の普及啓発活動の「ラン伴イベント」では,認知症の利用者とスタッフがデイサービスで午前中に200個のおはぎを作り上げ,マラソン完走者に配布するといった,地域活動と認知症の利用者の役割づくりを兼ねた活動を行ったり,行政の認知症施策担当者からの依頼で夏休み中に地域の学童保育で認知症の紙芝居を読む活動を行ったりするなど,行政と連携した取り組みができるようになりました。

地域活動の効果

このように,地域の行政や社会福祉協議会,地域包括支援センターと連携しながら認知症の普及啓発活動を行ってきたことで,デイサービスの知名度向上はもちろん,さまざまな地域活動を行う上での素地ができつつあり,各機関とスムーズに連携しながら,地域活動が地元で当たり前のように行えるようになり,依頼もいただけるようになりました。


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