高齢者の難聴とその特徴

注記
※本記事は隔月刊誌『臨床老年看護 』2019年5-6月号に掲載の「高齢難聴者とのコミュニケーション」(執筆者:大東文化大学 スポーツ・健康科学部 看護学科 老年看護学 教授 森田恵子)より引用しています。

聴覚と高齢者の生活

私たちは,5つの感覚器官(眼・耳・鼻・舌・皮膚)から情報を得ることにより,環境に応じた生活を送ることができます。耳からの聴覚情報は,安全な日常生活を営むだけではなく社会から情報を得る手段であり,また,家族との情緒的な交流においても重要な役割を果たしています。

高齢者は,定年退職や子どもの独立などの理由から,社会的交流やコミュニケーションの機会が減少しやすい環境に置かれています。さらに,聴覚機能の低下は,高齢者や周囲の人々が会話を躊躇する原因にもなりかねませんし, 高齢者が疎外感や孤独感を抱くことにもつながりかねません。

日本聴覚医学会は「難聴とは,聴覚が不十分であるという生理学的な機能不全を表し,聴覚障害とは,生理学的機能不全によって生じる様々な不自由・不便・日常生活上の問題を示す」としています1)。 老年期の難聴は,高齢者の身体・精神・社会的な健康と生活に影響を及ぼす障害(聴覚障害)と言えるでしょう。

難聴に関する研究の知見

難聴を引き起こす原因として,青年・成人期からの騒音に曝されていた経験,糖尿病,動脈硬化,虚血性心疾患などの耳への血流障害が取り上げられています2)

老年期の耳の健康を保持するためには,若い時から生活習慣を整えることが必要であることが明らかになっています。

また,近年の研究成果では,図1のように難聴は抑うつ,社会的孤立,認知機能の低下のリスクを上昇させることが示されています3)。聴覚障害は,抑うつや認知機能の低下など,老年期の生活の質(QOL)を低下させることに結びつきます。

難聴の分類と加齢性難聴者の特徴

難聴の分類には,障害の部位による伝音難聴・感音難聴などの分類のほか,発症時期より,先天性難聴・中途失聴・老人性難聴(presbycusis)に分けられます。

老人性難聴は,30代後半以降より聴力低下が始まることなどから,加齢性難聴(agerelated hearing loss)と表現されることが多くなりました2)

加齢に伴う難聴は,50代前半までは比較的緩やかに低下し,60 代以降に急激に低下します。日本における65歳以上の高齢難聴者は約1,500万人と推計され,加齢に伴い有病率は上昇します4)

加齢性難聴は,蝸牛以降の内耳や聴脳野などの聴覚にかかわる器質的な加齢変化による感音難聴です。その特徴は,高い周波数から低下し,やがて低い周波数にも影響し,高齢者の聞き取りを困難にします。

加齢性難聴は聴力が徐々に低下することから,自分では気がつかずに「聞き返しが多い」「テレビの音量が大きい」など,家族や周囲の人々から指摘されて自覚することも珍しくありません。

高齢者や家族は「年齢だから」と諦めたり,聴こえにくい生活のままで過ごしていたり,家族が会話に負担を感じているなどのケースが見受けられます。

しかし,高齢難聴者の聴力障害にはさまざまなタイプがあることや,後期高齢者になっても健康な聴力を維持している高齢者もいることなど,老年期の聴力には個人差が大きいため,高齢者の看護においては個別性に応じた対応が重要です。



隔月刊誌『臨床老年看護 』の詳細およびご購読のお申し込みはこちらから!
 ↓↓
https://www.nissoken.com/jyohoshi/lo/index.html



■関連ページ■

コメント